治療不可能な恋をした
深夜の病棟は、昼間とはまるで別の顔をしていた。
モニターの電子音と、ナースステーションから漏れるかすかな話し声。それ以外のすべてが沈黙している。
当直勤務で、仮眠室を出た梨乃は足音を立てないようにそっとドアを閉めた。
ほんの数十分ではあるものの、目を閉じたはずなのに、頭の中はずっとざわついたままだった。
(眠れない……というか)
心が、落ち着かない。
胸の奥に残る、昼間の理人の表情。あんなふうに感情をあらわにした彼を、梨乃はこれまで一度も見たことがなかった。
(なんであんなこと……)
分からない。分からないけれど──思い出すたびに、どうしようもなく胸がざわつく。
そのざわつきを紛らわせるように、病棟の裏手にある自販機コーナーへと向かった。
人気がなく、薄暗くて、看護師たちの巡回ルートからも少し外れている。この時間なら誰にも会わないと思って、選んだ場所だった。
(ここなら、少し落ち着ける……)
冷たい缶コーヒーを選び、取り出し口からそれを引き抜いた。
缶コーヒーのプルタブを引くと、かすかな音が沈黙の中に溶けていく。ひとくち口に含み、無意識に仰ぎ見た天井の白い蛍光灯は、どこかぼんやりとして見えた。