治療不可能な恋をした
(……ちょっと冷たすぎたかも)
口元をほんの少しだけ歪めてから、梨乃はそのまま壁際に寄りかかる。
誰にも会いたくなかった。ただ、静かな場所で、一人になりたかった。なのに──
「……仁科?」
ふいに、聞き慣れた低めの声が背後から届く。
思わず振り返ると、そこには白衣をはおった理人の姿があった。
いつも通り、手はポケットの中。仄暗い蛍光灯の下でも目元の輪郭がはっきりと浮かんで見えた。
「……逢坂先生……」
思わずそう言ってから、しまった、と思う。できれば今は、いちばん顔を合わせたくなかった相手だった。
けれど理人は特に動揺した様子もなく、ゆっくりと歩み寄ってきて、自販機の前で立ち止まる。
理人は自販機の前で立ち止まると、手をポケットから抜き、何種類かのボタンをぼんやりと見つめた。
「まさか、こんな所で会うとはな」
そう言って、ようやく視線を梨乃に向ける。その声音はいつもよりいくぶん低く、どこか気まずそうにも聞こえた。
「急変対応のあとって、なんか無性に甘いもん飲みたくなるんだよな」
苦笑交じりにそう言って、ホットココアのボタンを押す。ごとん、と落ちてきた缶を取り出しながら、理人は間隔を空けて立った。