治療不可能な恋をした
(……なんで、あんな言い方しちゃったんだろう)
自分でも答えに辿りつけずに、唇をそっと噛む。目の前の理人もまた、何も言わなかった。
言いたいことは、お互いにきっとある。けれどそれを言葉にするには、まだ何かが足りない。
そんな、言葉にならない空気だけがふたりの間に漂っていた。
「……私、戻ります」
気まずさを断ち切るように、梨乃はそっと頭を下げ、自販機の明かりから一歩だけ離れた。
そのときだった。
「……さっきは、」
背後から聞こえた理人の低い声に、思わず足が止まる。
「……え?」
振り返ると、理人は缶を手にしたまま、ほんの一拍、梨乃を見ていた。
けれど彼はすぐに目を逸らし、わずかに口元を歪めて言う。
「いや。なんでもない」
それだけ。
梨乃はそれ以上何も言えなかった。ただ小さく頷き、その場を離れる。
背中に残る理人の視線を感じながら──
胸の中に積み重なっていく“言えなかった言葉”だけが、夜の静けさにゆっくりと滲んでいった。