治療不可能な恋をした
「逢坂先生って、休みの日はなにしてるんですか〜? 」
──話を聞くつもりなんて、なかった。
なのに、どうしてだろう。隣の同僚の声よりも、遠くのその声のほうを拾ってしまう自分がいた。
「あー……基本家で寝てるかな。あと昼から飲んで潰れてる日もあるかも」
「え〜、意外!逢坂先生ひとり暮らし?」
「まあね」
「絶対お洒落な部屋住んでそう〜。なんか間接照明とか置いてありそうなやつ」
「いや、ただのワンルーム。普通の部屋」
「うそ!めっちゃ美人の彼女とかとタワマン住んでそうなのに〜」
「そんな予定は今のところないかな」
「えっ、彼女いないの?じゃあじゃあ、逢坂先生はどんな子がタイプですか?年上派?年下派?教えてくださいよ~!」
「さあ……どうだろう。強いて言うなら、好きになった子派」
「やだなにそれ!かっこいい〜っ」
楽しげな笑い声が重なった。グラスがぶつかる軽い音と、注がれるビールの音が混ざる。
「……」
どれも、梨乃とは無関係なはずの会話。
けれど、耳が勝手に拾ってしまう。言葉の端々、笑い声の温度、くぐもったような理人の声までも。
(……聞きたくないのに、)
グラスを持つ手に力が入り、氷がカランと音を立てた。気のせいか、飲み物の冷たさが指先からじわじわと痛みに変わっていくようだった。
「逢坂先生、いま気になってる人とかいないんですか?」
誰かがそう言った瞬間、梨乃の手元がぴたりと止まる。
(……知らない。知らないし、知りたくない)
なのに、心がざわつく。どうしてかなんて、考えたくもなかった。