治療不可能な恋をした
「わっ──おい!」
次の瞬間、理人の腕に身体を支えられた。倒れてきた梨乃の肩を抱くように、反射的に腕が回されていた。
その距離はあまりに近くて、いつもより少し低めに聞こえる理人の呼吸が、耳元に落ちてくる。
(……ダメだ。こんなの、だめなのに)
けれど、拒むだけの気力ももう残っていなかった。
梨乃は目を閉じたまま、理人の胸元に身を預ける。その腕の中で、梨乃はかすかに眉を顰めた。
(……ちゃんと、ひとりで立たないといけないのに)
そう思っていても、もう足に力は入らない。体の芯がじわじわと熱く、どこか心細かった。
理人は小さく息を吐くと、そっと肩を支える手に力を込めた。
「しっかりしろ、仁科。ひとまず部屋で休もう。お前もこのホテルに部屋取ってあるんだよな?」
「……うん」
「なら、部屋まで送る。歩けるか?」
梨乃はこくんと、小さく頷いた。
体を離そうとするも足元はふらついたままで、理人は何も言わずにもう一方の手を添え、自然な仕草で梨乃の体を抱えるように支えた。
「……ほら、ゆっくりでいい」
並んで歩くには距離が近すぎたけれど、理人の腕のぬくもりが、ひどく心地よかった。
廊下の照明は薄く落とされていて、時折すれ違うスタッフの視線を感じながらも、理人はそれに構うことなくまっすぐ歩き続けた。
(情けないな、私……)
結局、またこうして助けられる。だけど、どうしても理人の手を振り払う気にはなれなかった。
「部屋、何階だ?」
「……八階。815」
「わかった。エレベーターはこっちだ」
淡々とした口調の中に、どこか優しさが滲む。その声に導かれるまま、梨乃は静かに理人の隣を歩いた。