治療不可能な恋をした
エレベーターを降り、廊下の突き当たり近くまで歩くと、「815」の数字が刻まれたプレートが目に入った。
「ほら、着いたぞ」
理人の言葉に梨乃は立ち止まり、バッグに手を伸ばす。
カードキーを取り出そうとしたが、指先がかすかに震えて、うまくファスナーのスライダーに触れられない。
「……ごめん、ちょっと……」
「貸して」
理人がバッグに手を伸ばしかけた瞬間、梨乃は首を横に振った。
「自分で、やる」
ようやくカードキーを取り出して読み取り部分にかざすが、反応はなく、赤いランプが灯る。
「っ……」
眉をひそめた梨乃の隣で、理人が小さくため息をついた。
「……貸せって」
その声に苛立ちはなく、むしろ困ったような色がにじんでいた。
梨乃がカードキーを差し出すと、理人は代わりに操作し、無言で扉を開けた。
「ほら、入れるか?」
「……うん」
理人に支えられたまま部屋に入る。やわらかな照明が、静かに空間を照らしていた。ひとり用としては十分な広さで、ベッドの脇にはテーブルとソファが備えられている。
数歩進んだところで、理人が足を止めた。
「……奥まで運ぶ」
梨乃がうなずくのを確認すると、彼はそのままベッドまで連れて行き、そっと身体を預けた。
倒れ込むように横になった梨乃を見届けてから、理人は冷蔵庫を開け、水のボトルを取り出す。キャップまで外して、差し出してくれた。