最難関攻略キャラ、愛しのルカ様は今宵私の手のひらで踊る
――朝が来る。空が白み、街が目を覚ます。市場の人々の声、鐘の音、焼きたてのパンの香り。誰もが、昨日より少し幸せそうに見えた。その光景を見ながら、私は心の中で呟く。
「この世界も悪くない」
隣で、彼が微笑む。その笑顔を見て、やっと、心の底から思えた。……ああ、生きていてよかった。お母さん、私今幸せだよ。
そしてルカ様が静かに言った。
「これからも俺の隣で踊ってくれるか」
「喜んで。ただし次の振り付けは私が決めます」
「また手のひらで転がす気だな」
「もちろん」
笑い合いながら、陽の光が街を満たしていく。この国も、私たちもまだ途上だ。けれどようやく同じリズムで歩ける。風が吹いた。桜色の花弁がひとひら、トレイの上に落ちる。私はそれを見つめてそっと言った。
「愛しのルカ様。今日も私の手のひらで踊ってください」
彼が笑い、指先で私の頬に触れる。
「……ああ。何度でも踊らされてやる」
その言葉を聞いた瞬間、心の中の時計が確かに動き出した。
「あ、そういえばルカ様の秘密を聞いてないです‼」
「お、俺の秘密……いいか? 絶対に笑うなよ?」
「はい、もちろんですよ。心得てますから」
そう言って私は眼を瞑ってその秘密を待った。だが、待てど暮らせどなにも囁かれないので、ゆっくりと目を開けると……えっ⁉ 待って待って待って待って、待って⁉
私の唇はルカ様によって奪われた。人生初のキスだった。その唇は柔らかで紅茶の甘美な香りが漂った。
「え、あ、え! ルカ様⁉」
「な、なんだ」
「いきなりこんなのはずるいです……」
「……トウコ、その表情の方がもっとずるいぞ」
「あー! そうやって秘密をごまかそうとしたんですね⁉ その手には乗りません! ほら早く、教えてくださいよ」
「……口外禁止だからな。少しでも口角が上がったら許さない」
春風に乗って私の笑い声と、恥ずかしそうに言い訳を並べるルカ様の声が響いた。あの日の私を救うのはこんな推しの笑顔だったかもしれない。スマホもなく身一つでやってきたナリコイの世界。それはもう私の知っているゲームでもルカ様でもなかった。それよりずっと尊いものだった。だから私たちは怖いものなんてない。この世界であなたと生きていく覚悟はとっくの前にできているから。――王都は今日も紅茶の甘い香りが漂っている。