完璧すぎる淑女は「可愛げがない」という理由で婚約破棄されました。 ~元聖女ですが、古代魔術まで極めてみました~
「君は確かに、聖女として優秀だ。仕事も完璧にこなすし、誰が見ても非の打ち所のない淑女だろう。だが、私は……君のことが分からない」

 アルフォンスはそう言うと、言葉を選びながら続けた。

「君はいつも毅然として完璧だ。だが、それ故に僕には君が、遠い存在に思える。可愛げがないんだ、エメラルダ。僕は、リリアーナのような女性と笑い合いたいのだ」

 その言葉にエメラルダは、初めてわずかに口角を下げた。それは何とも言えない表情だった。しかしその表情さえ、まるで絵画のような魅力がある。

「王太子殿下のご判断、承知いたしました」

 エメラルダは、一切の感情を乗せずに答えた。そのあまりに冷静な態度に、アルフォンスは苛立ったように眉をひそめる。

「エメラルダ!なぜだ!なぜ何も言わない!怒りもしないのか!?そんなにも僕に愛情が無かったのか!?」
「怒る、ですか?いったい何に?殿下がご自身の望む人格のお相手を選ぶのは、当然のことでしょう。私はそれに付き従うまでです。……しかし、」

 エメラルダは一歩、アルフォンスに近づいた。その真摯な、それでいて凍えるような視線に、アルフォンスはたじろぐ。

「ご自身が望むものを手に入れるためとはいえ、国にとって最も重要な聖女に自由を与えるなど…。殿下も随分『可愛らしい』お方であると、そう再確認したまでです」

 エメラルダは、嘲笑と憐憫の入り混じった言葉を静かに言い放った。そして、淑女としてふさわしい姿勢で、深々と頭を下げる。顔を上げたエメラルダに浮かぶのは、不敵で揺るぎない笑み。
 アルフォンスは、小さく悲鳴を上げる。もしかして、自分はとんでもないミスを犯したのではないか、と。しかし、今更それを撤回することは出来ない。
 
 エメラルダは、ただ一言「失礼いたします」とだけ告げて、テラスを後にした。
 最後まで毅然で美しい彼女の背中を、アルフォンスはただ呆然と見送ることしかできなかった。
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