蒼へ沈む

1.5




日曜の朝。 
灯台へと続く、海沿いのなだらかな坂道。

ざっ、ざっ、と。私の横を歩く彼の足音は、右足の確かな踏み込みと、左脚の義足が地面を擦る少しだけ重たい音が、不規則なリズムを刻んでいた。

私は無意識のうちに自分の歩幅を落とし、彼のそのリズムにゆっくりと合わせながら歩を進める。

ふと海の方を見れば、太陽の光を反射して白くきらめく汐鳴の海が、どこまでも果てしなく広がっていた。

「じゃあ、もう本当に立派なお医者さんなんだな」

ひとしきりお互いの近況を話した後、燈矢さんは感慨深そうに目を細めながら言葉を漏らした。

海風に吹かれながらこちらを見つめるその瞳には、かつての幼馴染に向ける親愛と、自分とは違う世界を生きてきた大人の女性に対する、ほんの僅かな距離感が混じっている。

「まだまだ、気持ち的には修行中ですよ」

私は照れ隠しのように小さく笑って、手すりにそっと手を乗せた。
人の命を預かる重圧。毎日のように自分の無力さを思い知らされる総合病院での日々。15年間、決して平坦な道のりではなかったけれど、彼が失ったものの大きさに比べれば、私の苦労なんて取るに足らないものに思えた。

「……なんか、想像できない」

波の音に溶けるような、ぽつりとした呟き。
横顔を向けると、彼は少しだけ眩しそうに目を細めて、私の顔をじっと見つめていた。

「こういうのも何だけど……俺の中の夏菜って、ずっと17歳で止まってたから」

その言葉に、胸の奥がチクリと痛む。
彼の中で私が17歳で止まっているということは、彼自身の時間もまた、あの凄惨な事故が起きた『18歳の夏』で凍りついていたということの裏返しだ。

彼の未来も、私への想いも、すべてが暗い海の底に沈んだままになっていたのだ。

「……15年も経てば、色々、変わりますね」

私は海へと視線を戻し、波打ち際に打ち付けられては砕ける白い飛沫を見つめながら、静かにそう返した。

15年。
それは、何もできなかった少女が内科の専門医になるのに十分な時間であり。

小さな港町が少しずつ活気を失って朽ちていくのに十分な時間であり。

そして――海を愛した一人の青年の夢が完全に折れ、その傷跡が冷たい金属の義足にすり替わるのに、残酷なほど十分すぎる時間だった。

変わっていないのは、こうして二人で並んで見下ろす、このどうしようもなく広く、美しい海の青さだけだ。

「……そうだな。本当に、色々変わった」

隣で彼が、同意するように短く息を吐いた。

私たちはそれ以上言葉を交わすことなく、ただ潮風に吹かれながら、お互いの間に横たわる『15年という空白』の重さを、静かに噛み締めていた。


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