蒼へ沈む
灯台の頂上にある展望スペースから、二人で並んで海を見下ろす。
そこには、水平線の境界が曖昧になるほど、海と空が一つに溶け合うような果てしないブルーが広がっていた。
海風に髪を揺らされながら、その吸い込まれそうな青さに息を呑んでいると、隣で手すりに寄りかかっていた燈矢が、ふと沖の方へ指を差した。
「……見ろよ。イルカが遊んでる」
彼の指差した方向へ目を凝らすと、きらきらと光る波間に、確かに数匹のイルカの群れが楽しそうにジャンプして、白い飛沫を上げているのが見えた。
「ほんとだ……」
感嘆の声を漏らした私の隣で、彼が子供のように目を細めて笑う。
その無邪気な横顔を見た瞬間、私の脳裏に、潮風の匂いがする薄暗い図書室の記憶がふっと蘇った。
「……懐かしいな。私たちが初めてまともに話した時も、イルカの話をしたよね」
「そうだっけ」
海を見つめたまま、彼は照れ隠しのようにとぼけた声を出す。私はおかしくなって、ふふっと小さく吹き出した。
「忘れたの? 私、この汐鳴の海にイルカがいるなんて知らなくて。燈矢に『絶対嘘だ』って、ムキになって言い続けたんだから」
『嘘じゃねぇよ。図書室にずっと籠ってっから知らないんだ。今から見に行こうぜ』
そう言って、窓際で本を読んでいた私の腕を引き、強引にこの海辺まで連れ出してくれたのは彼だった。
窮屈な診療所の跡取り娘という『鎖』に縛られ、この小さな町には何もないと絶望していた17歳の私に、広い海と、そこに生きるイルカたちの姿を教えてくれた。
「……あの時、燈矢が教えてくれなかったら、私、この町のことずっと嫌いなままだったかもしれない」
ぽつりとこぼした私の言葉に、彼は少しだけ驚いたように目を丸くし、それから、困ったように優しく微笑んだ。
「……そっか。俺、昔から結構いい仕事してたんだな」
冗談めかして笑う彼の声は、波の音に溶けていく。
私たちはそれ以上言葉を交わさず、ただ並んで、海と空が溶け合う果てしないブルーの中で跳ねるイルカたちを、いつまでも静かに見つめていた。