蒼へ沈む

2.1





「……また、店に会いに行ってもいい?」

帰り道の別れ際。
これ以上彼との繋がりを絶ちたくなくて、縋るように、そしてひどく躊躇いがちに聞いた私に。
燈矢は一瞬だけ困ったように目を伏せ、それから、諦めたような薄い苦笑を浮かべた。

「いいけど、夏菜」

低く、静かな声だった。

「俺は、お前とは違う」

ドクン、と。心臓が嫌な音を立てた。
……何が違うのか、とは、到底聞けなかった。
聞かなくても、痛いほど分かってしまったからだ。

五体満足で、何不自由なく大学を出て医者になった私と。片脚と一番大切な夢を奪われ、この小さな町で一人細々と生きる彼。その間にある、決して埋まることのない残酷なまでの『違い』を、わざわざ彼の口から直接語らせるなんてこと、私には出来なかった。


沈黙して俯く私を見て、彼はふっと息を吐き、自嘲するように言葉を続けた。

「……それに、あんまり頻繁にうちに出入りしてたら、お前の親父さんもいい顔しないだろうしさ」

町の誰もが知る、立派な診療所の院長である私の父。
父が、ただの小さなカフェの店主で、しかも義足の男である彼と私が再び親しくなることを、どう思うか。痛いところを突かれ、私はギュッと唇を噛み締めた。

「もう少し、『良家の娘さん』って自覚を持てよ。……な」

ポン、と。
まるで聞き分けのない子供を諭すように、彼の手が私の頭に軽く乗せられた。
優しくて、大きくて、少しだけ不器用なあの頃と同じ手。
けれど、その温もりの裏側には『俺とお前は住む世界が違うのだから、もうこれ以上は踏み込んでくるな』という、彼なりの血の滲むような決別と優しさが込められているのが、痛いほど伝わってきた。

「……っ」

私は何も言い返せないまま、遠ざかっていく彼の少しぎこちない後ろ姿を、ただ立ち尽くして見送ることしかできなかった。



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