蒼へ沈む
私達の関係に、最終的な引導を渡したのは、結局、燈矢のほうだった。
はっきりと憶えている。
あれは、窓ガラスを激しく叩きつける、暴風雨の夜だった。
事故の報せを聞いてから数日が経ち、どうにか震える足を動かして勇気を振り絞り、私が彼の病室を初めて訪ねた夜。
無機質な、白いベッドの上。
消毒液の冷たい匂いが充満する病室で、私の視線は、シーツの下の一点に釘付けになって動かせなくなっていた。
彼の左膝から先が、不自然に平坦になっている。そこに『あるはずのもの』が永遠に失われてしまったというその残酷な空間から、どうしても目を逸らすことができず、私はただガタガタと震えて立ち尽くしていた。
そんな私に向かって。
ベッドの上で青白い顔をした彼は、ひどく静かな、そしてすべてを諦めきった声で告げたのだ。
「……夏菜。ごめん。別れよう」
雨音だけが響く病室に落ちた、その決定的な一言。
それを聞いた瞬間。私は、絶望や悲しみよりも先に、心のどこかで『酷く安心している』自分に気がついてしまったのだ。
これでもう、親に怒鳴られなくて済む。
彼との未来に思い悩む必要もない。
そして何より、こんな取り返しのつかない身体になってしまった彼を、私自身の口から『捨てる』という最低の悪者にならずに済んだのだと。
そんな恐ろしい安堵感を抱いてしまった自分を、絶対に認めたくなかった。認めてしまえば、私は人間として一番大事なものを失ってしまう気がした。
けれど、とめどなく溢れる涙の奥で、私が醜い安堵の吐息を漏らしてしまったことを、燈矢はきっと、全部見透かしていたのだと思う。
「……遅かれ早かれ、こうなる運命だったんだよ」
彼は、自分の痛みを押し殺すように、ひどく大人びた顔で、そう薄く笑った。
その乾いた笑顔が、私の心に、一生消えない『呪い』を打ち込んだことなど知りもしないまま。
私は彼に縋り付くことも、否定して抱きしめることもできず、ただ自分の身勝手さに押し潰されて、病室の床に泣き崩れることしかできなかったのだ。