蒼へ沈む
1.3
昔――高校生だった頃、心の底から大好きだった男の子がいた。
優しくて、少し悪戯っぽい笑顔がよく似合う、一歳年上の人。
汐鳴の潮風をそのまま纏ったような彼は、同年代の誰よりもずっと、大人びた考えを持っていたような気がする。
波の音が響く防波堤に並んで座り、二人でただ遠くを眺めていた、ある夏の夕暮れ。
彼は私と違って、この閉鎖的な町を心から愛していた。でもそれ以上に、町の外へとどこまでも続く『海』そのものに、深く魅せられていた。
「グランブルーって、知ってるか?」
オレンジ色に染まる水面を見つめたまま、彼はふと、夢見るような声で言った。
「深い海の中にある、混じり気のない、純粋な一面の青の世界。……いつか、絶対に自分の目で見てみたい」
潮風に揺れる彼の横顔は、私が知るどんな大人よりも頼もしく、そして酷く眩しかった。
彼は自分の丈夫な二本の脚で、この海を越えていく未来を少しも疑っていなかった。
「海を通して、俺は世界を見てみたい」
当時の私は、唯一の診療所の跡取り娘という重圧のせいで、海も、この汐鳴の町も、一生私を縛り付ける『檻』だとしか思っていなかった。
けれど、彼の口から語られる海とこの世界は、いつも途方もなく綺麗で。
隣で彼がその無邪気な野心を語ってくれている限り、私はこの息の詰まる町のことすら、いつか好きになれるような気がしたのだ。
彼がこの町を愛しているのなら。
彼と一緒なら、私もこの世界を愛せる。
そう、純粋に信じていた。
昔。あの夏の日の夜までは。