蒼へ沈む
顔を覆い、自分の無力さと劣等感に押し潰されて泣き叫ぶ俺に。
「……燈矢の、ばか」
震える、けれどひどくはっきりとした声が降ってきた。
顔を覆う俺の手首を、彼女の細く冷たい指先がそっと、けれど強い力で掴み、ゆっくりと引き剥がしていく。
涙で滲んだ視界の先には、俺と同じようにボロボロと涙を流しながら、それでも決して目を逸らそうとしない夏菜の顔があった。
「だって、私もおんなじ」
彼女は、自らの古傷を抉り出すように、泣きじゃくりながら言葉を紡ぐ。
「……15年間、忘れたことなんてなかった。あの時、どうして一番辛かったはずの彼の手を離しちゃったんだろうって。私が逃げたせいで、燈矢を一人で地獄に落としてしまったんだって……何度も、何度も後悔した」
俺の頬に触れる彼女の手が、小刻みに震えている。
俺が抱えていた劣等感と恐怖と同じだけの、いや、それ以上の凄まじい後悔と愛への執着を、彼女もまた15年間、たった一人で抱え続けてきたのだ。
「燈矢は、私に他の誰かと幸せになってほしいって言うけど……」
彼女は俺の胸にすがりつくように顔を埋め、俺の背中に強く、強く腕を回した。
「……私は、他の誰かと真っ当に幸せになるくらいなら。燈矢と一緒に、不幸になりたいって思ったから……だから、今ここにいるんだよ」
ドクン、と。
心臓が、痛いほど大きく跳ねた。
親の期待も、医者としての立派な将来も、世間から祝福される『幸せ』も。彼と一緒にいられないなら、そんなものに価値はない。
彼の隣が、社会の底辺で、傷つけ合い、惨めな姿を晒す『不幸』な場所だったとしても。私はあなたと一緒に、その泥の底へ落ちていきたいのだと。
「夏菜……っ」
俺じゃ幸せにしてやれない、という俺の最後の盾は。「一緒に不幸になりたい」という彼女の狂気的なまでの覚悟の前に、跡形もなく粉砕された。
もう、言い訳は何も残っていなかった。
彼女が欲しい。俺の欠落した身体も、惨めな劣等感も、すべてを飲み込んで「一緒に不幸になる」と泣き叫んでくれたこの女を、骨の髄まで俺のものにしたい。
「……っ」
俺は堰を切ったように彼女の細い身体をきつく抱きしめ返し、もう二度と離さないというように、その震える唇を貪るように塞いだのだった。