借金令嬢は異世界でカフェを開きます
今日のデザートはマロンのリクエストでシフォンケーキだ。
日本で使っていたような型は手に入らない為、もともとは雑貨として売られていた四角い型で作っている。ちょうど日本で使っていたパウンドケーキの型のようなものだ。それでもふわふわで評判なそれに、今は相談のために例のホイップしたクリームを添えている。
マロンたちが、「前に、生クリームでは高級すぎて、シフォンケーキの生クリーム添えは商品にはできないって言っていたでしょう?」と言っていたので、はじめて生クリームを買う際に作って見せた最初の一皿が、相当印象深かったのだろう。
生クリームを添えたシフォンケーキ。前世で普通だった単純な一皿が、ここでは王様でもなければめったに食べられない一品に見えるのだ。
じっと皿を見続けているオズワルドに、「コーヒーを入れますね」と断りを入れる。
こちらでのコーヒーの入れ方は、焙煎してひいたコーヒー豆を鍋で煮だすのが主流だ。グレースとしては美古都のパパのようにサイフォンで淹れたいところだけれど、道具がないので仕方がない。ドリップも、材料の入手や手入れに手間がかかりすぎて断念するなど、試行錯誤の結果、プレスという方法をとることにした。
道具は、もともと別の用途で使われてたポットに、これまた別の用途で使われていた金属のフィルターを合わせて作ってもらったものだ。抽出時間は一定にして、それより多くても少なくてもいけない。そのことさえ気を付ければ、油分を取り除かない分、香りのよいコーヒーを入れることができる。
もっともこのうんちくも、美古都の祖父が言っていたことを思い出しただけだが。
(ミキサーが手に入ると、今度はサイフォンとかエスプレッソマシンも、誰か作ってくれないかしらって欲が出るわね)
ハンドミキサーに関しては試用段階だったため、グレースなりの意見を言っておいた。今のままだと泡だて器の回転は速いけど、難を言えば、混ぜているものが飛び散りやすいことが気になる。速度を調整できるようにするか、祭りでよく見かける人形オルゴールのように、ハンドルで手回しができるといいかもしれない――と。
ふと視線を感じて顔を上げると、いつもまにかオズワルドがカウンター越しにグレースの手元を見つめていた。その目が面白そうに輝いているので、グレースはふふっと笑いをこぼす。