借金令嬢は異世界でカフェを開きます
グレースは、あらかじめ用意していた味見用の小さなクレープ生地を運んできた。
「これは春から秋にかけて仕込んできたジャムを塗ったもの。果物の酸味とクリームの相性は抜群よ」
イチゴやマーマレードなど、季節季節で大量に仕込んで保存しておくのは、ここでは当たり前のことだ。いくらここでは保冷庫が使えると言っても、そのあたりは毎年モリーがきっちり仕込んでくれる。母親仕込みだというモリーのジャムづくりは、グレースよりずっと上手だ。
そうやって試食や調整をし、今日は久々にカフェの屋台販売で人々の反応を確かめる。せっかくの休養日をつぶすなんてと、なぜか皆に半分説教のような雰囲気で反対されたが、(善は急げというしね?)と考えるグレースは、
「昼間だけにします」
と約束して強引に押し切ってしまった。
昼過ぎとはいえ冬とは思えない気持ちの良い陽気のせいか、思ったよりも人通りが多い。
そんななか、めずらしくレディ・グレースが屋台を出したと、準備中からちらほらと様子を見に来る人が出てきた。それを見てモリーも、「少し宣伝してきます」と広場のほうへ歩いて行った。
グレースは手際よくクレープの準備を終えると、たたんでいた看板を広げた。開店の合図だ。ただし、クレープという名前と、看板に書かれた見慣れぬ絵に、客はこちらの様子をうかがっているらしく誰も近づいてこない。それでもグレースがクレープを焼き始めると、マロンが代替クリームの製造者である義弟オウリとその妻を連れてやってきた。
「あの、すみません。このたびはなんだか母が無理を言ったみたいで」
まさかこんな若い娘だと思わなかったと呟いたオウリは、申し訳なさそうに妻と何度も頭を下げた。
「いいえ、とんでもない。とてもおいしいクリームですもの。うちでもぜひ取り扱いと考えてるんですよ」
「本当ですか⁉」
「ええ、もちろん。ですのでこれは、うちのためでもありますね」
茶目っ気たっぷりに笑うグレースに安堵したのか、オウリは財布を取り出して二人分のクレープを注文した。
「クリームだけのと、――イチゴジャム入りを」