借金令嬢は異世界でカフェを開きます
 オズワルドから受け取ったものを、モリーが鼻歌を歌いながらテーブルに並べていく。白身魚に衣をつけてあげたフライ、数種類の野菜を串にさして焼いた焼き野菜、ひき肉と野菜を包んだパイ、フォカッチャに似た小ぶりのパン。
 どれも素朴な定番料理で、モリーの大好物ばかりだ。休日には少しずつ食べ歩いているらしく、昨日オズワルドに「おいしい屋台を教えていた」のだと胸を張っているのが微笑ましい。

「保温魔法もかけてもらってるんですね。店長、ほっかほっかですよ。おいしそう」
「ええ、本当ね」

 彼女には内緒にしているけれど、普段節約をしているグレースは、屋台料理は贅沢品のように思えてほとんど食べたことがない。庶民価格だと分かっているし、数回市場調査のつもりで食べたことはあるけれど、いつも食事はさりげなく、できるだけあり合わせで済ませてきたのだ。

(食事を減らしてることがモリーにばれると怒られちゃうし)

 ここしばらくはオズワルドと共に食事をしているためか、最近グレースの顔色がいいとモリーがご機嫌だ。たぶん理由はわかっていないだろうけれど。

(ちゃんと食事をしていることもだけど、やっぱり嬉しい気持ちが表に出ちゃうものなのかしら。ちょっと恥ずかしい)

 誰にも気づかれてはいけないから、この気持ちだけは綺麗に隠す。絶対隠しきる。
 モリーからするとオズワルドはかなり年配の男性扱いだから、グレースの本心になど気づいていないことは幸いだ。

(もちろん一番気づかれてはいけないのは、オズワルドさん)

 最近ぐっと距離が近づいたように感じ、そばにいると気持ちがどんどん大きくなってしまう。それでもこれは期限が決まっている自由だから。――グレースは許される限り、心の中に秘めた気持ちを大事にしようと思った。

「レディ・グレース」

 低くやわらかなオズワルドの声に、グレースの胸の奥がトクンとはねる。
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