借金令嬢は異世界でカフェを開きます
「騎士ではなくて?」

 もう何を言われても驚かないつもりだったグレースが、屈強そうな体躯をもつビバルの正体に目をぱちくりとさせると、彼は面白そうににんまりと笑った。

「レディ・グレース、いいことを教えてあげましょう。俺はね、オズワルドとは幼馴染なんだが、体術でも剣術でも、一度もあいつに勝てたためしはないんだ。唯一勝てたのが本への情熱だったというわけ。知識だけは負けませんよ」

 戦える司書って最強でしょと片目をつぶるビバルの後ろから、髪の色を本来の金髪に戻したオズワルドがやってきた。

「やあ来たな、オズワルド。懐かしき氷の貴公子様の登場だ」
「変なあだ名で呼ぶな、ビバル。グレースがおびえたらどうするんだ」
「いや、ないでしょ。見ろ、うっとりしてるじゃないか。いいねぇ。いや、ほんといい。俺もこんな可愛い恋人がほしい」

 最後だけ思い切り真面目な声になったビバルを小突いたオズワルドが、改めてグレースを見てハッと息を飲む。吐息のように「美しい」と言ったのが聞こえ、グレースは熱くなった頬に手を当てた。その様子に、モリーや城の侍女たちがクスクス笑う。

 グレースのドレスはオズワルドから贈られたものだ。
 五日しか時間がなかったものの、お針子たちが急ピッチで仕立てたアイスブルーのドレスはグレースにぴったりだった。周りの様子から、もしかしたら事前にある程度準備されていたのかもしれない。

「お待たせしました、グレース」

 ヒヨコのような髪を整えたオズワルドが、グレースに手を差し出しながら、ほんの少しだけ心配そうな顔をする。いつもの眼鏡をしていないからだろか。「今の僕は怖くはないですか?」と聞かれ、グレースは首を振った。

「とても素敵です」

 普段のオズワルドも素敵だけど、年相応の姿もとても素敵だとうっとりする。

 求婚を受けてからはこれ以上ないくらい驚きの連続だったけど、不安がないのは、この人がそばにいてくれるから。
 優しく微笑んでくれるアイスブルーの目に、グレースも心からの愛をこめて微笑んだ。
< 74 / 75 >

この作品をシェア

pagetop