転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜
 が、猫の耳は人間よりも優れている。

 その話をしている生徒たちに気づいたトラは彼らに説教したらしい。

『廊下は走っちゃダメにゃん! だから飛ぶのもダメにゃん!』

 ――と。

 それによって今日、導きのペンデュラムはゲームとは違う場所を示した。それが、ここだ。生徒が乗っているのも杖ではない。

 ただの、台車だ。

「俺の勝ちだー!!!」
「お前、それずるいだろ!」
「それなら俺だって!」

 ん? 平和だったはずが、平和じゃなくなってきたな?

 台車に乗ってガタガタドコドコと競争していたはずが、魔法競争になり始めた。それを見越して顧問も、「何か起きそうだから動かしとけ」くらいのノリでペンデュラムを揺らしたのかもしれない。実際、静音魔法は使われていたしな。

「どうしましょう。だんだん危なくなってきましたね」
「でも、楽しそう」

 ベル子の瞳が輝いている。
 確かに、楽しそうだ。

「どうするの、ニコラ」

 ラビッツはやはり不安そうだな。予想と違う展開に弱いのかもしれない。

「うーん、しばらく見守っておくか。なぁ、リューク」
「……俺も混ざりてーな」

 お前もかよっ!
 いつもクールに見せているくせに、ふざけるのも結構好きなんだよな。

「でも、確かに危なそうだな。暴走するぞ」
「そうだな」

 ベル子の瞳がキラリと光った。

「……っ、危ない。行ってくる」

 台車が校舎の壁を走り出したところで、ベル子の足が地面を蹴った。ものすごいスピードで彼らに近づくと、軽やかな跳躍とともに、彼女の周囲の空気の流れが変わった。

『守って』

 彼女が手をかざした瞬間、手の平から放たれた光が目にも止まらぬ速さで広がった。校舎の壁や窓を守るようにきらめく壁を形成する。

 素早いし、見事だな……。

 校舎の窓は守られたものの、スピードは落ちない。

「うぎゃー! 止まらねー!」
「どいてくれー!」

 もう一度ベル子が手をかざした。

 光が広がり、暴走した台車の進路をなめらかに包み込む。

 ――ぼんよよよーん。

 まるで漫画のように台車と彼らはふっ飛んでいった。最後のオチはゲームと同じらしい。ゲームでは、窓から外へと飛んでいった。

 魔法も使えることだし、受け身くらいとるだろう。まだベル子の手は上にかざしたままだ。彼らが怪我をしないよう、力を使っているのかもしれない。

「弾力のある……バリア」

 誰かが呟く。ぼよよんするバリアを張れる者は多くない。

 風が吹いた。ポニーテールにしている紺の髪がなびく。ゲームでも綺麗な立ち絵だった。実際に見ると感動もひとしおだ。

 彼女は静かに手を下ろし、落ち着いた表情で生徒たちに声をかけた。

「スピード、出しすぎ」

 凛とした声に、生徒たちは一斉にうなだれた。

「すみませんでした……」

 謝罪の声に混じって――、

「あの人の……妹か」

 ぽつりと呟かれたその言葉に、ベル子の肩がびくっと震えた。


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