転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜
「ええ。頼まれ事がありまして」
「あら」

 軽く内容を説明する。

「そんなわけで、私は記録担当よ」
「大変ですのね。そして、さすがニコラ様ですわ」
「ええ。たまにふざけてしまうこともあるけれど、学園のために尽くす方よ」

 彼を立てるのも私の義務だ。

「ふふっ、交流会のお二人はとても素敵でしたわ」

 ふざけてしまうは余計だったわね……思い出させてしまった。

「あ、あれは途中で抜けてしまって申し訳なかったわ」
「いえ、とってもロマンチックで! ご存知です? あれから学園での流行りの小説は『悪役令嬢モノ』から『結婚式で花嫁を奪うヒーローモノ』に変わったんですの」
「なんてニッチな……。しかも奪われてはいないわよ。婚約者なのに」

 ここではベル子のいた国の翻訳された小説が流行っている。実際に王族や貴族のいる国でそういった特権階級の人たちメインの小説は書きにくいのか、この国で書かれた本は多くない。そっち関係の小説は、翻訳本が主流だ。

 私は元々、ゲームでは悪役令嬢扱いだった。ルリアンに嫌がらせをしていたからだ。……ポンコツな嫌がらせだったけど。

 ゲームの制作者は間違いなく、前世の流行りを意識していたのだろう。

「ニッチだなんて。結婚式で花嫁を奪うシーンも王道ですもの! それを彷彿とさせる、素敵な退場劇でしたわぁ」
「そ、そう。ありがとう……?」

 恥ずかしすぎる。

「お止めしてしまって申し訳なかったですわ。ぜひ、学園から奪われて駆け落ちするシチュエーションを楽しんできてくださいね」
「……ただのお仕事よ」
「んふふっ。王子様に奪われて空から逃げる。王道駆け落ちは浪漫ですからね」
「もうっ。逃げないし、駆け落ちじゃないんだから。い、一応、こ、婚約者なんだから!」
「ふふっ、応援していますわ」

 何を言ってもそのシチュで妄想したいらしい。悪役令嬢ならぬ駆け落ち令嬢扱いになっている。

 ……婚約しているのに!

「では、もう行くわね」
「はい。お楽しみください」

 仕事だと言い張っているけど、やっぱり楽しみにしているのはバレている気がする。最近はこうやって、からかわれることも増えてきた。

 寮から出ると、夜風が花の香りをふわりと運んできた。昼間の熱気が少しだけ残る中、わずかに肌にあたる風は柔らかい。

 既に寮の前で待っていたニコラが、自前の杖を軽く掲げた。

 ……待っててもらえるのは、やっぱり嬉しい。

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