友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「どうも」

 目の前にいたのは、顔も見たくない男だけだった。

「何しに来たんだよ」
「お前のせいだ」

 瑚太朗との会話は疲れる。
 こいつは俺以上に口数が少なくて、意思疎通が困難だからだ。

「わかるように説明しろ」
「莉子と一緒にいる」
「つまり?」
「泊めろ」

 いちいちこっちが分かりやすいように話せと促すまで、具体的な要望を口にしない。
 なんで、こんな話し方をするようになっちまったのか――。
 それはすべて、篝火グループの血縁者として生まれてしまったせいだ。

「俺と菫さんの愛の巣へ、わざわざ押しかけてくるなよ!」
「こっちも、迷惑してる」
「だからって……!」
「入るぞ」
「おい! 勝手に入んな! 帰れ!」

 自分と同じ境遇の、年齢が近い男。
 それが俺にとっての九尾瑚太朗という人間だった。
 従兄弟なんかじゃなくて弟だったら、支え合って生きていけたのだろうが――こいつと一緒に育っていいことなんて、1つもない。
 そう感じるほどに、彼とかかわるとろくなことがなかった。

「いつまで、猫を被ってる」
「一生だよ」
「続くと思うか」
「お前に言われたくねぇし!」

 瑚太朗は家主の許可なくズカズカと室内へ入り込むと、俺を責め立てる。
 その表情は、珍しく険しかった。
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