友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「菫さんと一番仲のいい人間は、俺だけでありたいんですけど……」
「蛍くん、莉子ちゃんに嫉妬してるの?」
「そうですよ。悪いですか」
「うんん。かわいい!」

 彼は苛立ちを隠しきれない様子で、ふてくされる。
 その姿は、飼い主に構ってもらえずに甘えた声を上げる動物のようで、抱きしめたい衝動に駆られた。

「ますます、大好きになっちゃった!」
「会社なのが、悔やまれます。自宅なら、好きなだけ愛し合えたのに……」

 それはどうやら夫も同じ気持ちだったようだ。
 抱き合うのは無理なら、せめて触れるだけでもと言わんばかりに肩を触れ合わせる。

 ――今日の蛍くんは、甘えたい日なのかな……? 

 こういうのも悪くないと素直に受け入れていると、近くで携帯電話の着信音が鳴り響く。
 どうやら、それは彼の腹部あたりから聞こえてきているようだ。

「ほ、蛍くん! 電話! 鳴ってるよ!?」
「気にしないでください」
「で、でも……」
「父親からなので」
「お父さん? それって、出たほうがいいんじゃ……」
「あの人は立場が弱いので。どうせ、ろくでもない用事ですよ」

 彼はスマートフォンを取り出すことすらせず、鳴り響く電話を無視した。
< 193 / 238 >

この作品をシェア

pagetop