友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「大声を出すな。妻が起きる」
「誰のせいだと……!」
「事前に何度も、説明したはずだ。これは今すぐに今の仕事を辞める準備を整えていなかった、貴様の責任だ」
「そうやって、なんでもかんでもこっちのせいにしやがって……」

 口を挟みたいのは山々だけれど、ここで声を発したところで拗れるだけだ。
 居心地が悪そうに縮こまっている九尾夫妻に会釈をしながら、私は成り行きを見守る。

「俺が今まで、どんな気持ちで日々を過ごしてきたと思ってる!?」
「わかりたくもないな」
「ほ、蛍くん! 落ち着いて!」
「今まで散々、好き勝手をしたんだ。いい加減、親孝行してくれたっていいだろう」

 蛍くんの怒りが最高潮に達してお父様の胸ぐらを掴んだ時は、さすがに止めた。
 殴り合いの喧嘩をする夫の姿なんて、見たくなかったからだ。

「やっぱり、来るんじゃなかった」

 彼はなんとか暴力を振るう前に踏み留まり、悔しそうに唇を噛みしめる。
 その後、ぽつりと呟いた。
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