友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 伊瀬谷くんは懐から折り畳んだ1枚の紙を取り出し、ひらひらと揺らした。
 きっと、ドヤ顔をしているんだろうなぁ……。
 おぶられているせいで表情を見られないのが、残念でならなかった。

「先輩の嫌なことは、俺が全部やります」
「そんな……。悪いよ。それは伊瀬谷くんの負担が、大きすぎるんじゃ……?」
「雑用は、慣れているので。問題ありません」
「でも……」
「その代わり、ある条件を呑んでもらいます」

 いくらこちらが提案していたとしても、やはりおんぶに抱っこはよくない。
 私がそう思い直して難色を示せば、被せ気味に彼の些細な願いが告げられた。

「これから俺達は、夫婦になるんですから。2人きりの時は、名前で呼んでください」

 伊瀬谷くんの性格から想像するに、こちらがあまりにも対価が少なすぎると異を唱えたところで、「ほかに希望はないので」と冷たくあしらわれてしまいそうだ。
 だからこそ文句を言うのは諦めて、彼の願い通りにする。
< 28 / 238 >

この作品をシェア

pagetop