友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「蛍、くん?」
「はい。約束ですよ。忘れないでくださいね。菫さん」

 名前で呼び合うと、特別感が生まれるのはなぜだろう。
 心臓の鼓動が早まり、全身が熱に浮かされたような感覚がむず痒い。
 まるで自分が自分ではないみたい。

 ――勉学や仕事に全力投球し続けた結果、恋の一つや二つも経験できないままここまで来てしまった。
 そんな私の慌てふためく姿を見たら、きっと「あなたに求婚したのは間違いでした」と言われてしまうだろう。

 顔が見えない状況で、本当によかった。

 私はほっと一息つきながら、彼の背中へしがみつく力を強めたのだった。
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