友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 ちょうどいいタイミングとでも言うべきか。
 なんの前触れもなくお母様を紹介されたせいで、必要以上に緊張して声を裏返させてしまった。
 恐らく、第一印象は最悪だろう。
 実際、聞こえてくる声はかなり不信感が滲み出ている。

『まぁ。あなたが、蛍のいい人ですの?』
「そ、そうですね……?」
『声だけでは判断がつかないから、実際にお会いしたいわ。あなた、休日はいつですの? 蛍と一緒に、いらっしゃれる日はありまして?』

 ここからどうやって挽回しようかと悩みながら会話を続けていると、だんだん雲行きが怪しくなってきた。

 ――なんだか蛍くんのお母様って、すごくお上品な口調だよね……?

 どこぞのお嬢様のような現実ではあまり聞けない気品たっぷりな様子に、面食らう。

「あー。ええっと……。ちょっと、仕事が忙しくてですね……」
『そうやって煙を巻こうと思ったって、無駄ですわよ。今度こそ、お見合いを受けて頂かないと』
「お、お見合い!?」

 蛍くんが無言で首を左右に振る姿と、顔を合わせるのが気まずい気持ちを総合的に判断してはぐらかせば、結婚が嘘だと断言されてしまった。
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