友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「私はそうは思わないけど……。蛍くんは、気を使うよね! こっちは年上なわけだし。お家では、やっぱりリラックスして……」
「ほかの人の意見も聞いてから、結論を出したほうがいいかと」
「でも、私達の間に愛がないって話は、誰にも秘密で……」
「実は、俺達と同じ境遇の連中が集まる、ちょうどいい催しがあるんです。会場内では仮面舞踏会のように顔を隠すので、身バレの心配はありません」

 残念ながら蛍くんは、こちらの提案に頷いてはくれなかった。
 ただでさえ私達は、特殊な夫婦関係を結んだのだ。
 結論を急ぐよりも、周りの意見を取り入れてからのほうがいいと言う夫の主張は一利あった。

「そうなの?」
「ええ。業務中にトラブルが起きなければ、一緒に行きませんか」

 彼は不安そうに眉を顰めて、こちらを見つめている。

 ここで断るなんて選択肢、あるのだろうか? 

 蛍くんを安心させるべく、私は笑顔を浮かべて声を発した。

「もちろん!」

 後輩はほっとした様子で頷き、手帳に予定を書き込んだ。

 ――来月号の土曜日かぁ。
 楽しみだなぁ。

 それまでの間に暇を見て、一緒に暮らせそうな物件を見繕っておかなくちゃ。

「今日は、お疲れ様。明後日もお仕事、頑張ろうね!」
「はい」

 こうして私達は、長い一日を終えた。
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