弱さを知る強さ

◎恭介◎

点滴を入れた瞬間
威勢よく話してたあやはが静かになった

本人も努力してみないようにしていたり
会話をして気を紛らわせていたのはわかったけど
明らかに顔色が悪い

そして黙り込んだ

「...うぅ」

「吐きそうか?」

「...うん」

「吐く時はここにはいて」

すぐ戻せるように容器を渡した

「...もう無理だ、外して」

いきなり起き上がって
訴えてきた

「もうちょい頑張れ」

「...おぇ」

苦しそうに戻した

「...はぁ...はぁ」

「なんで吐き気がするんだろう
そんな副作用ある薬じゃないんだけどなぁ
なんかトラウマでもあんのか?」

「...」

まぁでも自分の意思でベッドに行って腕を差し出した
今日はそれだけで進歩だと思って抜くか

「抜くけど明日もこいよ、はい腕」

点滴を抜いて落ち着くのを待った

明日のバイト、行かせたくない
でも最近あいつにダメしか言ってないし
逃げないならそれなりに自由は与えたい

それが信頼関係につながると信じている

「...ごめんなさい」

「落ち着いたか?」

「うん」

「今日も半分入らなかったな」

「...」

「バイトの話だけど土日どっちかにするか土日どっちもバーを休んで夜ちゃんと帰ってくるか」

「...」

「土日どっちかにするならどっちかはここにきて来週の実習に向けて治療受けて欲しい
バーを休むなら夜、クリニック集合」

俺が許せるのはそこまで

「...私は先生みたいに裕福じゃない
あんな大きいお家住めないしあんな素敵な家族はもういない
1人で生きていくために看護師にならないといけないし生活していくために働かないといけない
身体を粗末にするわけじゃないけど今の私にはバイトが必要なの」

「バイト行くなとは言ってない
行くならの条件を出してるだけで」

「先週、全部休んだの
だから今週は休めない」

「じゃこのまま入院しろ」

「...」

「俺だいぶ妥協したはずだけど」

「...じゃ日曜のバーは休むからあとは行かせて」

「話通じねぇな
そろそろ俺、キレそう」

「...」

「もう一度言う、俺は行くなって思ってる
妥協して提案してる
それがのめないから俺はもうしらない」

「...わかった
バーは休む」

「塾講師のバイトは何時に終わる?」

「19時」

「じゃ19時半にクリニック集合、土日両方とも」

「...わかった」

渋々ではあったが条件を呑んでその日は解散した
いつも通り送ろうとしたけどあやはは1人になりたいと言ってそそくさと病院を出てしまった

うまいこと距離が縮まったと思ったら離れて
俺はどうすれば正解なのか毎日悩む

医者になって初めてこんなに患者との関わり方に苦戦している


< 67 / 130 >

この作品をシェア

pagetop