私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
「待って……!」

誰に言うでもない叫びが、口からこぼれ落ちる。同僚の訝しげな視線も、乱れた髪も、もうどうでもよかった。私は無我夢中で走った。

お願い涼介、まだいて……。

磨かれたロビーの床に、私の必死な足音だけが響き渡る。すれ違う患者さんや職員の驚いた顔が、視界の端を高速で流れていく。重い自動ドアが、もどかしいほどゆっくりと開いた。

ひやりとした風が火照った頬を撫でる中、駐車場を一台一台、必死の形相で見て回った。

だけどいつも彼が決まって営業車を停めていた場所は、まるでぽっかりと穴が空いたようにがらんとしていた。そこに広がっているのは、人の体温なんて知らないとでも言うような、無機質で冷たいアスファルトだけ。

その光景を前に、私の足はぴたりと動きを止めた。

「元気で」という、彼の最後の言葉が、残酷に頭の中でこだまする。

さっきまで私を突き動かしていた焦燥感が急速に萎んでいき、その後にどうしようもないほどの絶望が、私の心を埋め尽くしていく。
もう彼には会えない……

そう頭の中で反芻すると、ぷつりと体中の糸が切れ、その場にうずくまった。堪えていた感情が嗚咽となって溢れ出す。

傷口に蓋をして、平気なふりをすることはできた。だけどその嘘で、心まで騙し切ることは、到底できなかった。

「ふ……うっ、涼介……」
「どうした」

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