私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
私の憂鬱な独白を遮るように、沙羅さんが隣に戻ってくる。その手には、カラー剤の入ったカップと刷毛が握られていた。

彼女が私の髪をブロッキングするため、屈み込むようにして隣に立った時だった。それまで見えなかった、腰の辺りにつけられたネームプレートが、私の視界に飛び込んできた。

〝店長 神崎 沙羅〟

心臓が一度だけ、ドクンと大きく跳ねて、そして、止まった。

やっぱりそうだ。聞き間違いでも、人違いでもない。あの沙羅さんだ。

「どうかされました?」

沙羅さんが、心配そうに覗き込む。その優しい声色に、また息が苦しくなった。

何か返事をしなきゃ、おかしく思われる。頭ではそう分かっているのに、喉がカラカラに渇いて、うまく言葉が出てこない。

「あの…?」

だめだ、もう、耐えられない。

「カラー、やっぱりやめておきます」
「え…?」
「お金は払いますので」

床を一点に見つめたまま、私はかろうじてそう告げた。

私の髪に触れていた彼女の手が、一瞬、ぴたりと止まる。

「すみません……急用ができてしまって」
「そうですか。では、シャンプーで仕上げますね」

突然のキャンセルにも、彼女は嫌な顔一つ見せず、すぐにアシスタントの女の子を呼んだ。

沙羅さんは私に気づいてる?ううん、そんなはずない。きっと私の存在なんて、知るはずもないんだから。

「すみません、急に変更しちゃって」

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