私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
会計時、アシスタントの子に、私は蚊の鳴くような声で謝った。

「いえ、大丈夫ですよ。急な用事でしたら仕方ないですし。また来てくださいね」

その悪意のない言葉が、胸に刺さる。

もう、二度と来れないよ……なんて言えるはずなく、私はただ、「はい」と小さく頷き、逃げるようにしてお店を出た。


「うっ、さむ……」

肌を刺すような冷気が、一気に肺になだれ込んでくる。

だけど私はお店から一刻も早く離れたくて、早足に歩いた。

すると──

「あの、すみません……!」

背後から私を呼び止める声が聞こえてきた。 なびく髪に逆らうように、私はぎこちなく振り返る。

そこには息一つ乱れていない、完璧な微笑みを浮かべた沙羅さんが、私を一点に見つめて立っていた。

どうして、追いかけてきたの……?

恐怖と緊張で体が動かない私に、彼女はハイヒールの音を響かせながら、ゆっくりと近づいてくる。

静かに息を呑むと、それと同時に沙羅さんが口を開いた。

「カード、お渡しするのを忘れてました」
「あっ」

なんだ、そういうこと。あまりにも普通の用件に、張り詰めていた心の糸が、ほんの少しだけ緩む。

「わざわざ、すみません。ありがとうございます」

動揺しているのがバレないよう、私は平静を装い、お店のカードを受け取る。

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