私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
二人で出掛けたこともキスをしたことも、抱きしめられたことも、何もない。

だけど、私の心にぽっかりと開いたこの大きな穴はなんだろう。

涼介が隣にいる。一番欲しかったものが今、ここにある。それなのに私の頭は、一ノ瀬のことでいっぱいだった。

「そっか、よかった。二人で家にいたから、なにかあったのかなって、内心ドキドキしてた」

包み込むような、柔らかい笑顔。それが、ひどく懐かしくて、私の強張っていた顔が、自然と緩んでいくのが分かった。

変わらない。大好きだった、あの頃の涼介と、何一つ。

私を真っ直ぐに見下ろすその優しい瞳に、忘れていたはずの、たくさんの思い出が込み上げてくる。

「久しぶりの、感触だ」

そう言って、彼は私をもう一度、ぎゅっと抱きしめる。その声は嬉しそうで、少しだけ子供みたいで、私は思わずその広い背中に、そっと手を回していた。

「ずっと、こうしたかった」

まるで離れていた時間を取り戻すかのように、何度も何度も、キスを繰り返す。私は彼からのキスを、ただ黙って受け入れていた。

だけど一番大切な部分が、この状況に集中できない。視界に入った壁の、小さなシミさえ気になってしまう。

ずっと、こうしたいと願っていたはずなのに。涼介のことが、好きなはずなのに。

どうして……。

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