私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~

羽田空港の喧騒を背に、私は新宿駅へと向かうリムジンバスに乗り込んだ。

窓際の席に深く腰を下ろすと、緩やかにバスが動き出す。ガラスの向こうで、さっきまでいたターミナルの建物が、どんどん小さくなっていくのが見えた。

やがてバスがレインボーブリッジに差し掛かると、窓の外にミニチュアのような東京タワーと、林立する高層ビル群が見えた。ガラス張りのビル群が、冬の弱い日差しを反射して、冷たく輝いている。

あいつは今頃、この空に続く、ずっとずっと海の向こうにいるのだろう。

こうなる前にどうしてもっと早く、自分の気持ちに向き合わなかったのだろう。涼介も言っていたように、私の心はとっくの昔に、あいつの方へ向いていた。

後悔してももう遅い。分かっている。だからこれ以上、後悔を重ねたくない。

私はコートのポケットからスマートフォンを取り出すと、震える指でトークアプリを開いた。彼の名前を呼び出し、メッセージを打ち始める。

『離れる前に伝えておくべきだった。一ノ瀬が好きだって。今どうしようもなく、一ノ瀬に会いたいよ』

何度も書いては消し、ようやく紡ぎ出したみっともないほど、素直な言葉。送信ボタンを、祈るような気持ちで押した。

「はぁ……」

返事はすぐには来ないだろう。今頃彼は海の向こうで、深い眠りについているはずだから。

スマートフォンの画面をそっと閉じると、再び窓の外の景色へと目を向ける。

するとすぐ、ポケットの中でスマホが鳴った。誰だろうと見て見れば、一ノ瀬からの返信だった。

「え? 嘘……」
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