私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
その姿を認めた瞬間、世界から音が消え、人々の笑い声も、噴水の水音も何も聞こえなくなった。
ただ彼の存在だけが私の世界の全てになり、止まっていた足が、自然と彼へと向う。
近づくにつれて、心臓は期待と恐怖で張り裂けそうなくらいに高鳴っていく。
彼の数メートル後ろで、私はようやく足を止めた。大きく深く、息を吸い込む。
「一ノ瀬!」
震える私の声に、彼の広い背中がぴくりと硬直した。そしてゆっくりとこちらを振り返り、目が合う。
いつも浮かべている意地悪な目も、人を寄せ付けない無愛想な表情もそこにはない。
ただずっと、世界でたった一人を待っていたのだとでも言うように、その瞳はひたむきに、私のことだけを映していた。
――あぁ、私。この人が、好きだ。
もう理屈ではない。ただどうしようもなく、目の前にいるこの不器用で、ぶっきらぼうな、だけど誰よりも優しいこの男が好きなのだ。