私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~

「私、あんたといると、素の自分でいられるの。格好つけなくてもいい。ありのままの自分を、全部、さらけ出せ……きゃっ、」

一歩踏み出した彼に、あっという間に腕を引かれた。私の短い悲鳴は、彼の広い胸の中に完全に吸い込まれて消える。

「一ノ瀬……」
「もうダメだと思ってた。今心臓がうるさすぎて、やばいことになってる」

彼の腕が、もう二度と離さないとでも言うように、私の体を強く抱きしめている。

ジャケット越しに伝わる彼の燃えるような体温と、ひどく愛おしい彼の匂い。幸福感が泉のように湧き上がってくる。

私はゆっくりとその大きな背中に、自分の腕を回した。

「あの告白、まだ有効?」
「無効なわけないだろ。お前が忘れたって言っても、俺が認めない。ずっとお前だけを見てきたんだから」

そう言う彼の顔は見たこともないくらい優しく、少しだけ泣きそうに笑った。

「やっと、捕まえた」
「一ノ瀬、好きだよ」
「知ってる。でも俺の方が、何万倍も好きだ」

嬉しそうに笑う一ノ瀬のダークブラウンの髪が、夕日に照らされてきらきらと揺れる。そして、ゆっくりと顔が近づいてくると、私はそっと目を閉じた。

彼の胸の中は太陽みたいに温かくて、ずっと騒がしかった私の心は、その腕の中でトクンと、穏やかで優しい音へと変わっていた。
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