私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
なんで今……。
よりにもよって、一番見られたくない人に、こんなみっともない姿を……。
「……お見苦しいところを見せてしまい、すみません」
「うちの会社近いですし、着替え……って言っても、術着とかしかないんですけど、持ってきましょうか」
「い、いえ! そんな。もう帰りますので」
視線をさ迷わせながら、必死に言葉を紡ぐ。
声かけてもらって嬉しいけど、こんな格好を見られるなんて、恥ずかしいな……。
「これ、よかったら」
差し出されたのは、綺麗にアイロンがかった、ブルーのチェック柄のハンカチ。
おずおずと手を出すとそっと受け取る。唯ちゃんや菜穂が、ニヤニヤしながら見ているのがなんとなくわかった。
「すみません、こんなことしかできなくて」
「いえ。ありがとうございます。今度お返しします」
「いつでも大丈夫ですよ」
ニコリと笑うと、会釈してその場をあとにする。その背中を見つめていると、心臓がドキドキと高鳴った。
きっと仕事用の笑顔なのに、向けられた笑みが嬉しくて、ジュースをかけられたことさえ、忘れそうになっている。憧れと恋の境目が、わからなくなってきている。
「王子、かっこい~」
「凛さん、進展じゃないですか。私のお陰ですね~」
棚ぼたとはこういうこと?
いやいや、だから彼は仕事の一環で、それにきっとすごくお人好しなのだろう。このハンカチに深い意味なんてない。