私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
「全然、そんなんじゃないって」

ハンカチをそっとポケットにしまいながら、全力で否定する。

「ごめん、私帰るね。このままじゃさすがにね」
「そうですよね。凛さん、すみませんでした」
「ううん、気にしないで。一ノ瀬、ジャケット借りるね。これじゃ電車乗れないし」

いまだ側にいてくれる一ノ瀬に、苦笑いをこぼしながら礼を言う。だけど彼は木崎さんが出て行った方を見つめたまま、いつも以上に不機嫌な顔をしている。

「どうかした?」
「なんでもない。送る」
「え? いいよ」
「バイクだけど。乗っていけ」
「でも後ろに乗ったら一ノ瀬まで汚れるよ?」

何度か彼の後ろには乗ったことがあるが、彼の背中にしがみつかないと振り落とされそうになる。つまり、汚れが一ノ瀬の背中にべったりついてしまう。

「いいから、行くぞ」
「えっ、あ、ちょっと……!」

手を掴まれるとぐいぐいと引きずられるように会場を後にする。もう、強引なんだから。

優しいんだか横暴なんだか。いまいちつかめない。でも今日はやけに過保護なのは気のせい? 

それから一ノ瀬に家まで送ってもらうと、マンション前でおろしてもらった。

一ノ瀬はバイクが趣味で、家にも何台かあるらしいが、今日はスクータータイプだったから、乗りやすくて快適だった。なんなら途中ウトウトしてしまったし。

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