私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
その痛々しい表情に、私はこくんと息を飲むと、掴まれた彼の腕に、そっと自分の手を重ねた。

「やめて……」

お願いだから、と祈るような気持ちで彼を見つめる。

「表情がコロコロ変わって、いつも楽しそうで、そんな凛が可愛くて仕方なかったんだ」

……だから、やめて。

まるで大切な思い出を一つ一つ、箱にしまい込むような、そんな切なそうな顔をしないで。

「俺は、そんな凛が好きだ」

聞きたくない。これ以上聞いていたら、私きっと……。

「やっぱり、買いに行ってくるね! コーヒーでいいよね?」

パニックになるのを堪えながら、咄嗟に涼介の手を振り払った。

だが逃げようとした私の腕は、いとも簡単により強い力で握り返されてしまう。

「凛、お願いだ。決心が鈍らないうちに」

……決心?その冷たい響きが、私の頭の中で何度もこだまする。

「なに、それってどういう……キャッ」

私の言葉を遮るように、涼介は私の身体をぐっと引き寄せた。抵抗する間もなく、そのまま彼の厚い胸へと押し込まれる。

嗅ぎ慣れたはずの彼の匂いが、今はただ悲しくて切ない。

「凛、聞いて」

彼の胸に顔を押し付けられたまま、私は抵抗することもできずにいる。

握りしめていた手からは砂がぱらぱらとこぼれ落ち、涼介のポロシャツを汚していく。

「見られてるかもしれないよ。それに、私の手、砂で汚い……」
「遠くて見えないよ」
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