私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~


キン、と耳鳴りがして、世界から一切の音が消えた。

寄せては返す波の音も、遠くで鳴いていたカモメの声も、何も聞こえない。ただ、彼のその言葉だけが、頭の中で何度も何度も反響する。

予感していたとはいえ、頭を鈍器で殴られたような強い衝撃に目の前が真っ白になる。

「どうして?理由は?」

喉の奥から絞り出すように、声をかける。

だけど涼介は私の瞳を見返さない。足元に視線を落とし、一点を見つめたまま表情を失っている。その食いしばる口元は僅かに震えているように見えた。

「どうして、急に? 教えてよ」

堪えていた涙がぼたぼたと砂の上にいくつも染みを作っていく。

私は、まるで駄々をこねる子供のように、彼の胸を何度も叩いた。

「なんでよぉ……!」

『小さな手だな』って、『守ってあげたい』って、言ってくれたくせに。 あれは、全部、嘘だったの?

「ごめん……凛。本当に、ごめん」
「愛してるのに、何で別れるの!? 私何かした? ねぇ、涼介ってばぁぁーー……」

わかってる。あの日から、振られる予感は、ずっと、ずっと心のどこかにあった。

だけど、覚悟なんてできるはずがなかった。

「う……うぅ……涼介、やだよぉ……」

呻くような私の泣き声は、寄せては返す波の音に吸い込まれていく。

皮肉にも、こんな風に誰もいない海は、別れの場所には都合がいいのかもしれない。どれだけ泣き叫んでも、この声は誰にも届かないのだから。

「やだ、離れたくない……」

そう繰り返しながら嗚咽と共に体を震わせる私の背中を、涼介がそっと撫でる。何も言わず、ただただ、嵐のような私の感情が過ぎ去るのを、静かに待っていた。
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