私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
どれくらいの時間が経ったのか。はっと息を吐いた後、涼介がぽつりと口を開いた。
「凛がこの前うちに来た日の前日、元カノに会ったんだ」
「え……? 何で今更?」
涙でぐちゃぐちゃの顔で、彼のシャツの袖を掴んだまま聞き返す。
「その日の朝、たまたま仕事で行った病院に、彼女……沙羅(さら)っていうんだけど、沙羅の友達と偶然会って。そしたらそいつ、俺を見るなり怒鳴りつけてきて……」
沙羅さん──。
涼介さんの口から初めて飛び出した、知らない女性の名前。心がどうしようもないくらい、落ち着かなくなる。
「沙羅がこんなときに、何で側にいてやらないのかって。俺、全然意味がわからなくて。詳しく教えてほしいって、頼んだんだ」
ごくり、と彼の喉が大きく動く。微かに震える唇に、一瞬だけキュッと力が入った。
そして、まるで覚悟を決めたかのように、彼は私を正面から捉え、その真っ直ぐな瞳をぶつけてくる。
その逃げも隠れも許さないというような強い眼差しに、私の胸はぎしりと押し潰されそうになる。
捉えられた視線を振り切れるはずもなく、私は小さく息を飲んだ。
「今、沙羅は……」
「……っ」
「俺の子を、妊娠してる……」
え?妊娠……?
その言葉が、頭の中で意味を結ぶのに、永遠のような時間がかかった。