君のとなりで、恋をする

2話 名前を呼ばれた日

──放課後の部室。


「ねえ、今日の水、お願いしていい?」


部室に入った瞬間、萌が当然のようにペットボトルを私に押しつけてきた。

まだキャップすら開けていない新品のボトル。

冷気が指先に伝わる。


「うん、わかった」


反射的に答えてしまう。

本当は「一緒にやろうよ」と言いたいのに、声が喉で丸まって消えていく。

断れない。

そういう性格だと、自分でもわかっている。

入部してまだ数日。

私たち一年の仕事は、タオルを並べたり水を用意したり、練習の補助ばかり。

覚えることは多いけれど、やること自体は難しくない。

最初は、萌と一緒に動こうって話していたはずなのに――。

気づけば、彼女は先輩たちと談笑したり、練習を横目にスマホをいじったりしていることが増えていた。

その間に自然と、水を入れるのも、タイマーを押すのも、雑巾を用意するのも・・・。

ぜんぶ、私の役目になっていた。


(・・・まあ、いい。私にできることなら)


小さく息を吐いて、言葉にならないため息を飲み込む。

手にしたペットボトルを抱えて、体育館へ向かった。






< 8 / 140 >

この作品をシェア

pagetop