君のとなりで、恋をする
コートでは、先輩たちが真剣な表情でボールを追っていた。

パスの音。

ドリブルのリズム。

シューズが床を擦る乾いた摩擦音。

体育館全体が、熱を持ったリズムで動いている。

ベンチ脇に水を並べながら、私はふと手を止めた。

この音に包まれると、不思議と自分まで身体が熱くなる。

さっきまで部室で感じていた孤独感が、少しだけ和らいでいく気がする。

たとえ部員ではなくても、この空気の中にいられることが、嬉しい――そう思った。

そのときだった。


「ありがとう、長谷川さん」


不意に名前を呼ばれ、心臓が強く跳ねた。

驚いて顔を上げると、そこに立っていたのは結城先輩。

体育館の光の中で笑う横顔が、あの日の記憶と重なる。

差し出したボトルを受け取るとき、指先がかすかに触れた。

ほんの一瞬。

けれど胸の奥で、はっきりと「どきん」と音がした。

結城先輩は気にする様子もなく、軽く笑ってから再び仲間の輪に戻っていった。

けれど――。

その笑顔と声は、熱を帯びて心臓の奥に残り続けた。


「え……」


息がもれた。

頬が一気に熱くなる。

耳の裏まで真っ赤になっていくのが自分でもわかる。

さっきまで冷たかったペットボトルの感触が、急に指にまとわりついて重くなった。


(いま……名前を呼ばれた?)


頭の中で何度も反芻する。

“長谷川さん”――ただそれだけの言葉なのに、特別な響きを持って胸に刻まれる。

マネージャーになってから初めて、先輩に呼ばれた私の名前。

たった一言なのに、世界が一瞬で色を変えた。







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