ラララ・コーヒー
絵を描き、アクセサリーを作り、服を縫い、器を焼く。時には前衛芸術と称して自らが作品になる。
赤みがかった茶色の大きな目、人形じみて整った外見。だが、君の喜怒哀楽は子どもよりも激しい。
そんな君は何かを作り出す事に至上の喜びを感じていて、今日もひとつ歌を作り出す。

俺と同い年とはとても思えないな。俺はソファもない、クッションもないアトリエの木の床に黒っぽいグレーのスーツ姿でぺたりと座ってきみを見ている。
黒いビジネスバッグの中には先ほどライターから取り立ててきた原稿の入ったUSBメモリーがある。朝、駅のコンビニで買ってすっかりぬるくなったペットボトルのお茶があり、半分以上なくなった制汗剤があり、そろそろ買い換えたいくたびれたスマートフォンがあり、もうすでにびしょびしょのタオルハンカチ、
ビニール袋に入れた文庫本が2冊、白いマスクが2枚、プチプラの財布、家の鍵。果てない憂鬱。そんなものばかり入っている。

毎日、毎日、毎日、
上司にどやされ部下をなだめ深夜まで必死で働いても毎月の手取りが不安。出版界なんてどこもそうと自分をなだめ妥協して生きている。
(君は自由だ)

無重力を飛ぶ鳥のように。

「うらやましいな」
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