続・幼なじみの不器用な愛し方
ターミナル駅で結子とランチをした後、お茶もそこそこにわたし達は大型書店へと足を向けた。

二部に渡って行われる『石崎とも 新刊刊行記念サイン会』に参加するためだ。




「……なんでおるんや」


順番が回ってきて、パーテーションの向こうに案内されるなり、その人は椅子に座ったまま顔を顰めた。


「だって、サイン本欲しかったんですもん」

「送った書籍にも、ちゃんとサイン入ってたやろ。あ──旦那の分と、2冊名前入りで」

「それとこれとは別です。サイン会には参加したいじゃないですか」


わたしから書籍を受け取り、作者の石崎とも──石田さんが、表紙を開いて慣れた手つきでサインを書いていく。

わたしのよく知る様相ではなく、ぱりっとしたセットアップに無造作にセットされた髪。

渡したメッセージカードには宛名を記載しているけれど、一瞥もせずに『秋山さんへ』と書いてくれた。


「いただいてすぐに読みました。目がぱんぱんになるまで泣いちゃった。贔屓目なしに、大好きなお話になりました」

「……それ、LIMEでも聞いた」

「直接でも言いたかったんですよぅ」


石田さんの表情が険しくなるけれど、その耳はほんのりと赤い。


「またうちに遊びに来てくださいね。みんな会いたがってました」

「あぁ。次東京来る時、連絡するわ」


ふっと表情を和らげた石田さんにぺこりと頭を下げて、ブースを出る。

たった今サインを書いてもらったばかりの書籍──『さくら』を両手で大切に抱えて。




結子と別れ、帰路に着く。
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