天才幼女セラフィーヌ、ツンデレ辺境伯様とただいま領地改革中!
「お嬢様、お嬢様!」

耳元で響く切迫した声に、私は意識を取り戻した。

重い瞼を押し上げると、木の梁がむき出しであちこちに染みが浮いた天井が視界に入る――ここは、私が暮らしているタワーマンションの部屋じゃない。

「お嬢様、ご無事ですか!」

顔を覗き込んできたのは、四十代ほどの女性だった。
質素な灰色のメイド服に身を包み、潤んだ瞳は悲しみと安堵の狭間で揺れているように見える。

私はぼんやりとその顔を見つめながら、ようやく思い出した。

――ああ、そうだ。私、オフィスで倒れたんだっけ?

宮川夏美、三十三歳、独身。
経営コンサルタントとして年収二千万以上を稼ぎ、クライアント企業を次々と立て直してきた。
最後に手がけたのは地方の老舗製造業の再建で、三ヶ月連続の深夜残業。会社とマンションを往復するだけの生活に、限界が来たのだろう。

デスクに突っ伏した瞬間、視界が真っ暗になった。

そして、気づけばここにいる。

「……ここ、どこ?」

口を開いた瞬間、自分の声に思わず目を見張った。
高くて舌足らずで、アニメに出てくる幼児のような声。

慌てて自分の手を見ると、小さくて指も短く、ぷにぷにとした感触。
まるで、五歳児くらいの子どもの手だった。

「あぁお嬢様よかった……!三日も意識を失っておいででしたから……」

メイドの女性――マルタの言葉に重なるように、私の頭の中へ別の記憶がどっと流れ込んでくる。

この体の『元の持ち主』、本当のセラフィーヌの記憶。

名前はセラフィーヌ・ヴェルナー。
リーフェルト王国辺境の小領地・ヴェルナー領を治める男爵家の長女。歳は五歳。

男手一つで育ててくれた父が、一週間前に流行り病で息を引き取った。
葬儀を終えてまもなく、今度は父と同じ病にかかっていたセラフィーヌもまた倒れた。高熱にうなされたまま生死の境をさまようこと三日。目覚めると、私、宮川夏美の意識が宿っていた――というわけだ。

「嘘でしょ……?」

理解しがたい状況を前に、思わず呟かずにはいられなかった。

(つまり私は、異世界転生してしまったということ……?)

「お可哀そうに……」

マルタが震える声でこぼす。
その言葉は当然、私・宮川夏美に対してではなく、セラフィーヌに向けられたものだ。

ヴェルナー男爵家は代々、この辺境の小さな土地を守ってきた。
ところが数年前から領地経営が一気に悪化。父が立て直そうと奮闘するも状況は改善できず、借金だけが膨れ上がった。
領民は職を失い、この屋敷は今にも崩れそうな有様だ。

頭の中で、置かれている状況を整理してみる。

前世の記憶を持ったまま、異世界の五歳児に転生。
しかも、破綻寸前の貧乏貴族の家――正直、最悪案件である。

(でも……再建のしがいはある)

私はいくつもの倒産寸前企業をV字回復させてきた、敏腕経営コンサルタントだ。
数字と仕組みを読み解き、立て直すという本質は同じはず。

ここは会社ではなく領地で、私はただの五歳児だけれど――

(よし――この世界でも、もう一度やってやるわ!)
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