天才幼女セラフィーヌ、ツンデレ辺境伯様とただいま領地改革中!
執務室のデスクには、山のような書類が積み上がっていた。

報告書、借用書、未払いの請求書……。
レオンハルトはそれらを上から順に取っていき、鋭い視線で中身を確認する。ページをめくる手の速さは、明らかに場慣れした人間のそれだった。

私も彼の横にそっと近づき、書類を覗き込む。

――ひどい。想像以上だ。

借金総額は、ざっと見積もっても年間収入の十倍以上。利息だけで領地の収入を食い潰し、元金は一向に減らない。そして支出だけが雪だるま式に増えていく。

(私が過去に担当した案件と比べても、ぶっちぎりのワースト案件だわこれ)

「……ひどいな」

レオンハルトが低く呟いた。

「このままでは、来年を待たずに破綻する」
「私もそう思います」
「……は?」

レオンハルトの手が止まる。
しまった、つい心の声が出てしまった。

「邪魔をしないでもらえないか?」
「でも、このおうちにかかわることでしょ?」
「君のような子どもが首をつっこむ話ではない」

レオンハルトはピシャリと言い放つ。
彼からしてみれば、仕事の邪魔をしに来た空気の読めない子どもに映っているのだろう。

(悔しい、前世ではバリバリ働いてたのに……!)

レオンハルトの言葉を聞いたマルタの表情が一気に青ざめた。

「そんな……ではここはどうなるんですか?」

執務室の空気が重く沈む中、私は静かに息を吸って顔を上げた――そろそろ、出番だ。

「……おじちゃま」

静かな部屋に、幼い声が響く。
レオンハルトが、驚いたように振り向いた。

「……おじちゃま?」

アイスブルーの瞳に、一瞬だけ「聞き間違いではないか」という色が浮かぶ。
私はこくりと頷いてにこっと笑ってみせた。

「おうち、おかねないんでしょ?だからセラ、いいこと考えたの」

できるだけ、可愛く、あどけなく。
けれど、中身は全力で提案プレゼンのつもりだ。

レオンハルトの表情が『面倒くさい』から『困惑』へと変わる。

「……いいこと?」
「おうち、しゃっきんがあるでしょう?それを『ぜんぶはむりだけど、すこしずつならかえせます』って、おねがいするのはどうかな?」

レオンハルトの眉がぴくりと動く。

「……は?」
「そしたらね『じゃあ、りそくさげてあげる』って、なるかもしれないでしょ?」

必死で幼児語に翻訳しながらも、頭の中では前世の知識が一気に回り出す。

要するに、返済計画の組み直しだ。
支払猶予と利息軽減を交渉して、体力を取り戻すのを優先する。死にかけ企業の再建では鉄板の手法だ。

レオンハルトはしばし沈黙した後、ぽつりと呟いた。

「……つまり、債務の再編成というわけか?」

その瞬間、私は何度も大きく頷いた。

「そう!それそれっ!さすがおじちゃま!!」

(やっぱりこの人有能!話が通じるわ!!)

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