最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 そのあとのことはよく覚えていない。

 朝目覚めると、婚礼の儀式が無事に済んだ証を神官が確認し、名実ともに夫婦になったのだとシルヴィオから聞かされた。

 その日から寝室をともにしていたが、シルヴィオは何か言いたげな目をするだけで、結局、何も言わずに数日後、戦地へ旅立った。

 あの日の記憶が鮮明に思い出され、リーゼは恐怖した。

 また、彼が自身を傷つけるさまを見せつけられるのか……。
 それだけは嫌だ。

 逃げる間もなく、覆いかぶさってきたシルヴィオが、逃げ道を塞ぐように両手をつく。

「シ、シルヴィオ様……、何を……」
「逃げるな。あなたのすべてを目に焼き付けたい」
「何を、何をなさるのです……?」

 ドレスのひもを解かれ、肩があらわになり、リーゼはぶるぶると震えた。

「怯えるな。……本来なら、あの日に済ませておくべきことだった」
「ですから、何を……」
「あなたは嫌だったのではないか。いや……、今もだ」

 何を言っているのか、リーゼはさっぱりわからなかった。

「あのときの俺は、あなたを傷つけたまま、戦地に向かう決意はできなかった。だが、今は違う。俺はこの半年、あなたを想わない日はなかった。もう一度会えたら、必ず……と決めていた」
「私は何も傷ついたりはしていません……」

 傷ついたのは、シルヴィオだったのではないか。

 リーゼは恐る恐る彼の手に触れた。
 大きくて分厚く、ゴツゴツとしている。その手のひらをいたわるようにするりとなでると、青い瞳が熱をはらんで揺らいだ。

「覚悟してくれ。……できる限り優しくすると、誓う」
「シルヴィオ様……?」
「あなたを抱きたいのだ。嫌でも……、頼む。俺を受け入れてほしい」

 耳元で囁かれるかすれた声に、リーゼの思考は真っ白に染まった。

 急いでシャツを脱いだシルヴィオの大きな身体が、ドレスを取り払われた細くて白い肌を覆う。
 心臓が早鐘を打ち、熱い吐息が漏れる。

「シルヴィオ、様……」

 彼を呼ぶ声は、重なった唇とともに甘く封じ込められた。
 いつしか、リーゼの罪悪感もためらいも、彼のすべてに飲み込まれていった。
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