I 編む
掴みどころのない人だ。
非の打ちどころのない経歴と実績と持ち主でありながら、不遜さはない。
いわゆる上から目線の物言いをするでもなく、下心も見当たらず。
上でも下でもないフラットさで接してくるのだ。

相手が誰であれ公正であろうと心がけているのだろうか。二階堂聡のその殊勝さはどこから来ているのだろうと、ちらと思う。

「話しこんじゃいましたね」
腕時計に視線を落として聡がぼそりと言う。
そろそろ出ましょうかと、その言葉をしおに席を立った。

明日美は会社に荷物を取りに戻って、今日はもう切り上げることにしたが、聡はまた仕事に戻るという。
涼しい顔をしながら、こちらには想像もつかない重責を背負っているのだろう。

本来交わることのない二本の線が、いっとき重なった。それだけのことだ。

その夜はそう思っていた。
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