I 編む
ペットボトルを手にした彼は、そのままナチュラルな挙動でコイン投入口に小銭を落とした。

こちらに目を向けたまま「どれにします?」と問うてくる。

「えっ、いいですよ」
慌てて手を小刻みに横に振ってみせる。奢ってもらう理由がない。

「もう入れちゃったから。リクエストないなら押しちゃうけど」
指をさまよわせる。

ちょっとSじゃない、もう。でも不快感がないのが不思議だ。
「じゃあ…このライム味の炭酸水で」

そのまま流れで休憩コーナーに移動して立ち話になった。

「どうですか最近、D &Iのほうは?」

「シニアの方に講習をやってもらってるんです」
三人でシニアを訪ねて体験談などを聞いていることを話した。
「ある意味win-winかなって。シニアの方から、久しぶりに若い人と話ができて楽しかった、って言ってもらえたりもするので」

「それはいいアイディアだな。なかなか考えつかない」

正面からそう言われると、なんとも照れくさい。
「いやいや、二階堂さんがやっている仕事に比べれば全然大したことないですけど」
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