I 編む

当店の味はこれ、ですからお気に召したらどうぞ、と一本芯の通ったメッセージが伝わってくるのだ。

いつも感じよくにこにこしている庶務部の橘さん、が板についている自分。周りに合わせること、嫌われないことに意識を向けて、それだけでいいのか、とふと問いたくなる。
ひりつく口をラッシーで潤して、一皿のカレーのなかに哲学を見ていた。

自分の中のBorderを超えたいと語った聡。
彼はここのカレーを食べながら、どんな刺激を受けているのだろう。

それにしてもこれだけの味と香りを生み出すには、いったいどれだけのスパイスが必要なのか。
エスニック料理に疎(うと)い明日美にはさっぱり分からないが、料理人の手間と時間が凝らされていることは想像がつく。

ちらりとキッチンに目を向ける。
このあいだと同じように二名の外国人の男性と一名の日本人女性が、立ち働いていた。
日本語が不得手なのか、お互い身振り手振りを交えて指示を伝えている様子だった。